2020年11月07日

襟裳岬に行った

着いた時には真っ暗だったので、一泊して
朝早く岬の突端へ
ここは、果てだ
見渡す限り、遥か太平洋が広がっている
遠く何もないのが、なぜかわかる海だ
けっこうな起伏の遊歩道を、本当に岬の三角の先っぽまで行ける
横なぐりの不規則な
ビルの谷間のすきま風とは違う、太く芯のある風
人ではなく、風の場所
こんなに海なのに、なまぐささのない潮の香り
今にも吹き上げられそうで、ゾワゾワする
三角の先の先に立つと、昆布漁の船が、数隻出ているのが見えた
ゴツゴツとした大小の岩をひらりひらりと避けながら、長い棒状のものを海に刺す
くるくると昆布を引っ張りあげる
岸壁の真下では、女性が昆布を波打ち際に並べて干している
昆布のぬめりが、朝日に照らされて
黄金の輝きを、辺り一面に放っていた
まるで、神話のようだった
神秘の旨味グルタミン酸は、昔々神代の時代に与えられたものだったのかー?なんてことを想像しながら
混ざり気のない淡く澄んだ空気の中、連面と繋がってきた営みの神々しさと、そこにある自然のあるがままに、敬虔な気持ちになった
今でもふと、私の中で寄せては返す
私は襟裳岬の波を、インストールしたのかな
決して穏やかでない波の音が、深く遠く、聞こえてくる
少し時を戻そう

宿のご主人から、朝日が眩しくて、絶対目が覚めるからと言われて
ほんとにー?と思ってたけど
その通りだった
夜、真っ暗で見えなかった窓の向こうは、全部海だった
おととい、山からみた朝日とは違う
海からの朝日は、揺らめいて、地球の後光だと思った
夕日よりも朝日の方が、光が強いんだ
なぜ、私はそう思ったんだろう

豪華な朝ごはんをいただき、旅館を出てレンタカーに乗った
さよーならー、と後ろを振り返ったら、無数のとんぼが、羽をキラキラさせながら飛んでいた
九州のとんぼとちがう?と思って、老眼気味の目をこらすと
いつの間にかそこら中に来ていたとんぼが、見るもの全て2匹繋がった状態で飛んでいた
本当に全部だ
一匹残らず
後で聞いたら、タイミングを見計らって、一斉に交尾するんだって
すごく、面白い
ものごとには、タイミングがあるんだな
今、という時が来るのだ
襟裳の突端で、交尾中のとんぼから、なにやら深そうなことを教わった気がした