2025年09月01日

月がわり写真展と題しまして、毎月トップの写真にテーマを添えて、お届けしています(^^)

9月のテーマは「雲のお話」

いつもと趣向を変えて、短い昔ばなしとなっております

こちらは、父がふと口にした子どもの頃の思い出を元に創作したものです

どうぞ、心の空きスペースに(*^^*)

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昔々

お山の上に、おきつねさんと呼ばれている神社がありました

真っ黒い絵の具で塗りつぶしたような、ある夏の夜

誰もいるはずのない山から、どんどこどんどこ太鼓の音が聞こえてきて

夜中じゅう鳴り響きました

おきつねさんが騒いどる

ふもとの人達は、恐ろしいような、不思議なような、何とも腹の座りの悪い気持ちで一晩過ごしました

次の日

大雨が降り、どーん

六畳の部屋をゆうに潰してしまうくらいの石が落ちてきて

女の子が1人、下敷きとなりました

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女の子はもらわれっ子で、小さな遊郭の2階に住んでいました

学校をよく休んで、みなを取りに海へ行ったり、芋を掘りに畑へ行ったり

そのせいか同級生は、ぼんやりとしか顔を思い出せませんでした

お葬式の日

なぜ石が遊郭へ落ちたのか、大人たちは、その様子をさも実際に見た、という言いぶりで話し込んでいました

子供たちは少しおどおどしながら、お焼香の列に並びました

前の晩、おきつねさんが騒いどった、あれは何やったとやろか

確かめに行く者はおらず、よそもんのばちかぶったな、と、みんな可哀想に思いながらも、どこかほっとした顔をしていました

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火が飛ぶと、海が荒れる

太鼓が鳴ると、山が揺れる

おきつねさんの前ば通ると、かろうとった魚が石に変わっとる

山へ1人で入ると、隠される

戻って来ても、魂ばぬかれとる

おきつねさんは、人の魂ば魚んごと喰らうとやろか

それとも、難ば知らせてくれたとやろか

ふもとの人達は、それからもおきつねさんを遠くから拝みました

今となっては昔々

おきつねさんがどこにあったかは、定かではありません