2020年11月16日

北海道最後の夜、バイト先のボスのお知り合いの家へ泊めていただいた
「ジブリの世界みたいなとこだよ」と事前に言われていたんだけど
無国籍というか、誰も知らないどこかにある場所、という感じの不思議なところだった
家も、庭も、畑も、ご家族で一から作られており、なくなられた先代も、息子さんもアーティストで
家自体も、庭の森の中に点在している創作物も、無造作に置かれている全てが、引っくるめて作品だった

夜が早い
人工的な明かりは、最小限
飲み込まれる寸前の青が、見たことない鉱物のようで
化石にでもなった気分だ
青い空気の中に閉じ込められ、私は結晶になる

ボスは、このうちの物語の中に、すっと溶け込んで行った
私は、どう振る舞えばいいのか、わからないでいた
登場人物としては、あまりにも未熟な気がした
犬と猫だけが、妙になついてくれた
そういえば
初めての土地、場所に入ったときは、自分を馴染ませるために、そこの食べ物を食べ、水を飲み、神様にご挨拶する
ご飯とお茶をいただき
考えるのをやめて、先に休ませて貰うことにした
聞いたことのない何かの鳴き声が響いた気配がした

朝、自分の好きなことをすることにした
傘と長靴をお借りして、一人裏の森へ散歩に出かけた
雨が時折激しく葉を揺らすけど、木々の間を歩いていると、ほとんど濡れることはなかった
地面が落ち葉でふかふかだ

川があった
浅いので、向こう岸に渡れると言ってたな
増水してるかなと思いながら、誘われるように近づいた

流れは緩やかだ
水も多くない
石にはりついた苔に注意しながら、川の真ん中まで行ってみることにした
長靴は最強だ
紅葉した木々が、風にざざーっと枝ごと持っていかれて
赤やオレンジや黄色の葉っぱが、空に散らばった
私は一体どこにいるんだ
気づけば雨はやみ、傘をたたんで、私は川の流れの中に立ちすくんで
何を見ているのか
水の呼吸
風の呼吸
雨の呼吸
森の呼吸
ああ、そうだ
自分も呼吸していた
クリアなことがいいとは限らない
世界は曖昧だ
曖昧の中へ、靄のように霞のように
自分がゆらゆらと広がっていく時
居るような居ないような
生まれたような死んだような
そんな、始まりと終わりの場所に立つことを感じる
ここに来れて良かった
これが感謝という感情だな
自分の中をいっぱいにするものに、「感謝」と名前をつけた
こうやって、言葉は生まれてきたんだろうか
伝えたい人に、伝わるように
溢れでるものを、結晶にするように
そのきらめきを、渡せるように